東京高等裁判所 昭和32年(く)82号 決定 1959年9月14日
少年 S(昭一七・一・三〇生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
申立人は抗告理由の要旨は、
申立人は昭和三四年八月一二日前橋家庭裁判所高崎支部において窃盗、同未遂保護事件について、医療少年院に送致決定を受けたものであるが、これは自分が聾唖のためと思う。しかし聾唖は治らないし、仕事が覚えられると思つて来たのに、ここでは病気の治療をするだけで、自分はただ食べて寝ているだけで仕事も覚えられない。聾唖だからといつて他の人と同じように一〇月も一年も居なければならないのはいやだ。自分の将来のためにも早く社会に出て基礎をつくりたいと思う。ここでは決して自分の為になるとは思はれない。であるから原決定の取り消しを求めるため抗告した。というのである。
本件保護事件記録及び少年調査記録を調べてみると、申立人は後天的障害による聾唖者であるが、一〇歳の時聾唖学校に入学したところ、盗癖がつのつて昭和三四年三月中学部一年修了で退学処分となり、それから家出放浪がはげしくなつて、ついに同年四月一七日から五月一五日までの間前後四回に本件非行に及んだものであり、家庭における監護は困難であるから、その性癖を矯正するには施設に収容してその知能の向上を図り、申立人の将来にふさわしい職業教育を施す必要があると認められその資質にかんがみると医療少年院に送致することが最も適切である。けだし医療少年院は、心身に著しい故障のある少年を収容してこれに矯正教育を授ける施設であるから、申立人が同院では単に病気を治療し、食べて寝ているだけで仕事も覚えられないので自分の為にならないと思うのは申立人の誤解ないしひがみというべきである。であるから原決定はけつして不当な処分ではなく、申立人の抗告は理由ないものである。
よつて少年法第三三条第一項に則つて本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長判事 尾後貫荘太郎 判事 堀真道 判事 下関忠義)